ベンチャー企業における採用を考察~「転職の思考法」を読んで~

初めまして、霞ヶ関にあるとあるベンチャーCFOをしているstellabughetです。Stellabughetは自分で開発中の予算システムから命名しています。

私の職責はCFOという、モノの価値を見極めて、カネを集め、それを企業価値が最大化できるようにモノに投資するのが仕事ですが、ベンチャーという小さな組織であるため、営業以外の業務については大体関与しているのが実態です。その中の一つに人事があります。

最近、「転職の思考法」という本を読みました。この本は、その名の通り、転職を考えている人向けに書かれていますが、Twitter等では新卒や大学生の人にも薦められています。

「転職の思考法」に書かれている内容を簡単に説明すると、

・転職する際には自分のマーケットバリューを意識しなさい。

・マーケットバリュー=技術的資産×人的資産×業界の生産性で、技術的資産は営業など職種に紐づくものである専門性とプロマネ経験等の職種に紐づかない経験からなり、人的資産とは社外の人脈、業界の生産性とは業界一人当たりの平均付加価値を言います。

・本書では、業界の生産性は転職者が見極めるべきもので(見極め方のヒントが書いてあります)、20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産を強化するようにアドバイスしています。

個人的にはすごくよく書かれた本だと思います。転職を考えている人は一度読んでみると、大きな気付きが得られるのではないでしょうか?

一方、僕は会社の人事責任者も兼ねているので、この本はターゲットとする人、つまり転職希望者とは異なる視点で読みました。採用する側から読んでみました。

具体的には、当社が採用者のマーケットバリューをあげるような行動をとったらどうなるだろうと?つまり、採用者に対して専門性、経験、人的資産を強化できるような機会を意図的に提供することです。例えば、会計の専門性はあるけれど経験がないA君を500万円で採用して、経験や人的資産を獲得できる場を用意して(例えば、M&Aプロジェクトのプロマネのポジション)、A君のマーケットバリューを500万円から700万円に上げたとしましょう。普通であれば、A君のマーケットバリューは700万円なので、当社は折角鍛えたのに追加で給料を払うことになります。でないと、折角鍛えたA君は転職してしまうことになります。一見すると、この戦略を企業がとると、企業側が損をしているようにも見えますが、僕個人の見解は違います。

先日ある人事システムを作る会社と話をしたのですが、企業が人を惹きつけるのは、①企業理念による魅力、②活動による魅力、③組織風土による魅力、④条件による魅力があります。ここで、給料は魅力の一つであり、例えば、A君のマーケットバリューが700万円になったからと言ってすぐに700万円にしなければいけないわけではないと思います(「すぐに」と書いたのは長期的にはマーケットバリューと給料は均衡しているべきだから)。また、A君は自分のマーケットバリューを考えながら選択肢が増え、当社に留まることも、自分のマーケットバリューを払う企業に転職することもできます。ここで重要なのはA君が選択肢を持っていることです。これにより、いやいや生活のために当社で働くリスクを低減することができます(いやいや働く人がいるとびっくりするくらい企業のモチベーションに影響を与えます)。さらに、当社はマーケットバリューを上げることを意図的にできれば、これは当社のノウハウになります。A君が転職したとしても、次のB君を同じように鍛えてあげればいいのです。そして、A君のマーケットバリューが上がる過程では、確実に当社の価値もそれ以上に上がっています(M&Aプロマネからもたらされる会社への利益は、A君のマーケットバリュー増加分である200万円よりも大きいでしょう)。最後に、リクルートのように転職していくA君と建設的な関係を継続出来れば(手順さえミスらなければA君も経験を与えられたと認識していれば喧嘩別れになるリスクは低い)、当社もA君にもWin-Winとなります。

実は上記の考え方と非常に近い考え方をしている企業があります。それはEYという会計事務所です。私が過去在籍していたEYのSan Joseオフィスは給料が安い割には激務で有名でした。にもかかわらず、EYは非常に求人に大きな力があります。これは何故でしょうか?実はEYを卒業した人にはかなり明確なキャリアパスがあり、EY卒業後のキャリアは普通にその企業に経理等としてプロパーで入るよりも良いものになることが多いからです(例えば、EYでマネージャーまでやったらベンチャーのコントローラー等)。簡単に言うと、EYは修業期間なんですね。今のCFOの業務が出来るのはEYなので私もEYにはすごく感謝しています。

話が脱線してしまいましたが、企業として採用者のマーケットバリューの増加を応援するというのはある程度理にかなっていると思います。この方針に基づいて採用活動が出来ないか、一度CEOと相談してみようと思っています。